誰が引き受けるのか。プロジェクトマネジメントの二つの意味

誰が引き受けるのか。プロジェクトマネジメントの二つの意味

「AI駆動開発のプロジェクトマネジメント」という言葉には、いま二つの意味が混在しています。一つは、AIを使って進捗表や議事録、リスク管理表を素早く作る仕事です。もう一つは、AIが書いたコードを誰が引き受け、本番環境に出せる状態にするかを、実装が始まる前に決めておく仕事です。株式会社ワンオブゼムが主柱に据えているのは後者で、内容は三つの決めごとに分かれます。仕様をAIに渡せる粒度まで割ること、AIの利用範囲を着手前に線引きすること、そして何を確かめれば合格と言えるかを実装前に人が決めることです。この記事では、二つの意味がなぜ混ざるのか、当社がなぜ後者を主柱に選んだのかを書きます。

二つの意味

「AI駆動開発」も「プロジェクトマネジメント」も、それぞれ単体では長く使われてきた言葉です。二つを組み合わせた瞬間に、AIツールでPM業務を進める話と、AIが書いたコードの責任を誰が持つかという話が、同じ検索結果の中に並びます。読み手が探しているのがどちらかを確かめずに記事を読み進めると、ツールの使い方の話を、責任の話だと思い込んだまま終わることがあります。

意味AはAIでPMを回す仕事、意味Bは書いたコードを引き受ける仕事。この記事は意味Bだけを扱う対比図
意味A。AIでPMを回す 意味B。書いたコードを引き受ける
主語 プロジェクトマネージャーの手元の作業 発注側が本番に出す直前の判断
AIが肩代わりするもの 進捗の整理、議事、リスクの下書き コード、テスト、書類の下書き
残る問い どのツールで回すか 誰が責任を持って出すか
買い手 PM本人、ツールの導入担当 情報システム部長、事業部長、内製に着手したあと進まなくなった責任者

意味Aは、PMの手元にある議事録や進捗表、リスク管理表をAIが下書きする話です。効率を上げるための記事やツールの比較記事が数多く出ており、この記事では扱いません。意味Bは、発注する側が本番リリースの直前に下す判断そのものです。ここには、相談先として名乗っている会社がまだ多くありません。株式会社ワンオブゼムが主柱として扱うのは、この意味Bです。

書いたコードを引き受ける、とは

もう少し具体的に言うと、AIが書いたものを誰の責任で本番に出せる状態にするか、実装が始まる前に決めておく仕事です。決めるのが遅れるほど、後から条件を当てはめる作業になり、手戻りが大きくなります。

AIに書かせること自体は、いまや多くの会社ができます。短くなるのは書く時間だけです。何を作るかを決める時間と、出来上がったものが本当に動くと言い切るための確認の時間は、むしろ増えます。当社は2016年からAIの研究開発に取り組んでおり、生成AIが広く使われるようになる以前から、この種の判断の難しさに向き合ってきました。

止まる場所は、技術そのものではありません。次の三つです。

意図とのずれ

人向けに書かれた要件をそのままAIに渡すと、動くものは出ても意図とは違います。人が実装するときは行間を読んで補ってくれた部分が、AIでは埋まりません。書かれていないことは、書かれていないとおりに実装されます。

承認が下りない

機密情報の扱いや、生成コードの権利についての線引きが無いまま実装が進むと、出来上がった後の本番リリースの判断で止まります。動くものはあっても、情報システム部門が出してよいと言い切れません。

テストが写し鏡になる

AIが実装もテストも書くと、テストが実装の写し鏡になります。全部通っても、それは「実装のとおりに動く」ことしか確認していません。「頼んだとおりに動く」かどうかは、別に確かめる必要があります。

主柱の一行は、この三つを一つの問いにしています。

AIが書いたコードを、誰が引き受けるのか。

詳細はAI時代のプロジェクトマネジメントに置いてあります。

先に決めておく三つ

型は、発注側が踏む場所に合わせて三つに分けています。雛形の公開は、この記事ではしません。決まっていないと止まる場所だけを書きます。

実装前に決めておく三つ。仕様を割る、AIの線引き、合格条件
決めごと 発注側で起きていること 先に決めること
仕様を、AIに渡せる粒度まで割る 人向けの要件をそのまま渡すと、動くものは出ても意図とは違う。手戻りは、人手だけの開発より大きくなる 何を確定させてから実装に入るか。分割の単位と、渡す前の確定事項
AIをどこまで使うかを先に決める 生成コードの権利、機密の扱い、責任の所在が決まらず、本番リリースの判断が止まる 適用範囲、入力してよい情報、承認の流れ。社内の生成AI利用規程とは別物
何を確かめれば合格かを、実装前に人が決める AIが実装もテストも書くと、テストが実装の写し鏡になり、検証として成立しない 受け入れ条件、テスト方針、レビュー範囲。AIが一日に出す量は、人が全部読める量を超える

仕様を、AIに渡せる粒度まで割る

人向けの要件をそのまま渡すと、動くものは出ても意図とは違います。何を確定させてから実装に入るかという分割の単位を、着手前に持っておく必要があります。詳しくは人向けの要件定義を、AIに渡せる粒度まで割る方法に書いています。

AIをどこまで使うかを先に決める

生成コードの権利、機密の扱い、責任の所在が決まらないと、本番リリースの判断が止まります。社内の生成AI利用規程とは別に、案件ごとの線引きが必要です。詳しくはこの案件でAIに何を渡してよいかに書いています。

何を確かめれば合格かを、実装前に人が決める

AIが実装もテストも書くと、テストが実装の写し鏡になり、検証として成立しません。受け入れ条件、テスト方針、レビュー範囲を実装前に固める必要があります。詳しくは何を確かめれば合格かに書いています。

三つとも、実装が始まる前に決まっていることが条件です。実装が進んでからでは、実装に合わせた後出しの基準になります。

なぜ、いま線引きが必要になったのか

生成AIがコードを書く量が増えるほど、実装そのものにかかる時間は短くなります。一方で、発注する側の負担は減りません。何を作るかを決める難しさ、AIをどこまで使ってよいかという判断、出来上がったものが本当に動くと言い切るための確認作業。この三つは、AIが速くなるほど重くなります。実装が速くなった分だけ、決める作業と確かめる作業に時間を使う必要があります。

この負担を減らす方向で考えると、AIの利用を狭める話になりがちです。当社が主柱にしているのは逆の発想です。AIをどこまで使ってよいかを先に決めてしまえば、その範囲の中では迷わずに進められます。線引きは、AI活用を止める理由ではなく、AI活用を進める条件です。

どちらを探しているか

探している語が、どちらの意味に近いかだけを見ます。費用の安さや期間の短さを求めている語は、この記事の対象ではありません。

近い語 意味 この記事での扱い
AIで進捗を回す、AI駆動PMツール、議事の下書き 意味A 扱わない
書いたコードの責任、本番の承認、情シスが止めている 意味B 扱う
社内の生成AIガイドライン、従業員が使ってよいツール 別の意図 扱わない。開発案件の線引きとは別
委託の費用、期間短縮、何週間で作れるか 単価の土俵 扱わない

この四つの近い語のうち、意味Bに当たるものだけが、この記事とその子記事の対象です。単価や期間の話は別の土俵であり、当社が主柱として扱う三つの決めごととは接続しません。

開発を頼まなくても、三つだけを頼める

当社が実装を担当しない案件でも、仕様の割り方、AI利用の線引き、合格条件とレビュー範囲の設計だけをお受けできます。要件定義とAI利用方針の策定、品質保証の設計に加えて、複数のベンダーが関わる案件では取りまとめもご一緒します。内製に着手したあと進まなくなった段階からでも、見るべき場所は同じ三つです。

決めるだけでなく、そのまま手を動かして本番稼働まで運ぶ形もあります。考え方はAboutに、相談はお問い合わせにあります。

よくある質問

AI駆動開発のプロジェクトマネジメントとは何ですか

AIが書いたものを、誰の責任で本番に出せる状態にするかを、実装の前に決めておく仕事です。進捗や書類をAIで回す仕事ではありません。

AIでプロジェクトを管理することとの違いは何ですか

「AIでプロジェクトを管理すること」は意味Aで、PMの手元の書類や進捗をAIが下書きします。この記事が扱う意味Bは、書いたコードを誰が引き受けて出すかを先に決めることです。呼び方が同じでも、買い手も成果物も違います。

「誰が引き受けるのか」は、具体的に何を指しますか

生成されたコードの権利、機密を入力してよいか、問題が起きたときの責任、本番に出してよいかの判断です。ツールの操作者のことではありません。

開発を頼まなくても相談できますか

できます。仕様の割り方、AI利用の線引き、受け入れ条件とレビュー範囲だけをお受けしています。

なぜ合格条件を実装前に決めるのですか

AIが実装とテストの両方を書くと、テストが実装の写し鏡になります。全部通っても、確かめたことにはなりません。合格の物差しは、人が先に持ちます。

AI利用の方針は、社内の生成AI規程と同じですか

違います。社内規程は、従業員がどのツールに何を入力してよいかです。ここで言う方針は、この開発案件でAIに何を渡し、生成物を誰が引き受けるかです。

AIを使うと開発は安くなりますか

書く時間は短くなります。決める時間と確かめる時間は増えます。安くなる前提では進めません。

雛形やチェックリストは公開していますか

この記事では出していません。決まっていないと止まる場所だけを書いています。案件ごとに書き起こします。

情報システム部門が承認できない、とはどういう状態ですか

権利、機密、責任の所在が文書になっていない状態です。動くものはあっても、出してよいと言い切れず、リリースの判断が止まります。

内製に着手したあと、進まなくなった場合も対象ですか

対象です。止まっている場所が、仕様の割り方・AIの線引き・合格条件のどれに当たるかを先に見ます。当たるなら、実装の前にそこを固めます。

「意味A」と「意味B」を、両方同時に進めることはできますか

できます。AIで進捗管理を進める取り組みと、AIが書いたコードを誰が引き受けるかを決める取り組みは両立します。この記事は後者に絞って書いています。

この主柱は、当社が2016年から取り組んできたAIの研究開発とつながっていますか

つながっています。当社は2016年からAIの研究開発に取り組んでおり、生成AIが広く使われる以前からの経験を、この判断の型に反映しています。

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